「沖縄をバスケットボールで変える」琉球ゴールデンキングス代表取締役社長・白木享氏

沖縄のバスケットボール(以下バスケ)が熱い。中心にいるのはB.LEAGUE・琉球ゴールデンキングス(以下キングス)だ。

現行のB.LEAGUEとなってからの初タイトル獲得に全力を注ぐ真っ最中。そして沖縄からアジア、世界へ向けてのコンテンツ発信を始めている。

昨年6月にキングス代表取締役社長に就任した白木享氏に、クラブの現状と今後を語ってもらった。

~沖縄とクラブの伝統を大事にしながら時代に合った形へ

2007年創設のキングスは、5シーズン連続での地区優勝はあるが日本一の経験はない(bjリーグ時代には4度のリーグ優勝経験あり)。昨シーズンはチャンピオンシップファイナルの舞台で宇都宮に2連敗という悔しさを味わった。B.LEAGUE7年目での悲願達成を目指す中、開幕前にはクラブの経営体制が一新される変化も起こった。

「スポーツビジネスにフルタイムで本格的に携わるのは始めてです。以前から在籍する社員に色々と教えてもらい、少しずつ理解している状況です」

昨年6月1日に沖縄県宜野湾市のIT関連企業「株式会社プロトソリューション」が球団株式を取得、資本参加が決定。それに伴って6月10日に白木氏がキングス代表取締役社長に就任した。

「キングスのポテンシャルは高いと思っており、前社長・木村達郎さんというカリスマ経営者が作った素晴らしいクラブを、沖縄の文化にしていきたい。そして成熟したコンテンツとして国内外へ発信し、NBAへ行けるような将来有望な選手も輩出したいです」

新たなフェーズに突入、チームとビジネスの両方が強いクラブが目標。

~「沖縄をもっと元気に!」を絶対に忘れない

白木氏はこれまでの経験から、「プロスポーツ不毛の地」と言われる沖縄の現状も理解しており、その点でキングスの経営に活かせる部分もあるという。

「キングスの理念を大事にすることです。『沖縄をもっと元気に!』という理念に基づいて動く。選手、スタッフの全てが共有、体現することを忘れてはいけません」

まずは本拠地・沖縄アリーナが立地する沖縄市を軸に、沖縄本島全域を元気にしていく方針だ。

「沖縄市を中心に考えています。まずは沖縄市の方々にいかにして会場へ足を運んでもらうか。地元が盛り上がらなければ、熱が広がるわけありません。その部分は明確にしています」

「近年の沖縄市は経済、治安など厳しい局面でしたが、若い方々を中心に少しずつ回復傾向です。以前に比べれば大きく回復しています。建物、町などはリノベーションを含めてどんどん良くなっており、キングスもできることから協力しています」

「キングスの試合日に、沖縄アリーナに出展しているフードトラック等もその一環です。まずは飲食店業界の方々、沖縄市の商工会議所、観光協会などと密接に繋がって取り組んでいます。小さなことからでも良いのでやり始め、沖縄市が元気になること。その『一丁目一番地』としてやっています」

就任時には「沖縄の地を日本一のバスケットボールの聖地とするため、世界に通用する強い企業を5年かけて作っていきます」と明確にしたのも、同様の思いからだという。

「5年というのは大事な数字。例えば小学1年生が6年生になるだけの時間です。社会が変わるということは、そのくらいのスパンがあれば十分できると思います。そういった計画性を持って、沖縄市との取り組みを進めています。もちろんキングスという組織に関しても同じです」

キングス代表取締役社長・白木享氏は大きな可能性を語ってくれた。

~タイトルとW杯はキングスを知ってもらうチャンス

本拠地・沖縄アリーナでは今年8月にバスケのW杯が行われる。米国NBAでは八村塁(レイカーズ)、渡邊雄太(ネッツ)が活躍するなど、日本バスケ界への注目度が高くなっている中での開催となる。大会自体の成功はもちろん、沖縄市の更なる地域活性化への追い風にしたいところだ。

「8月のW杯は大きなキーです。沖縄アリーナ周辺ではホテルや大きな駐車場などハード面の建設が進んでいます。沖縄市の方々とは週に何度も会って、できることを模索しています。バスケというソフト面からできることをコツコツとやっています」

日本代表へ多くの選手を輩出することで、「琉球ゴールデンキングス」の名前を世界中へ知らしめることにも繋がる。

「日本代表には、ぜひ多くの選手がキングスから呼ばれるようにしていきたい。もちろん来季へ向けて選手の疲労やケガも心配ですが、日本代表としてプレーするのは何よりの名誉だと思います。キングスには素晴らしい選手が何人もいるので、彼らを知って欲しいですし、キングスの名前を全国、いや全世界に知ってもらいたいです」

「W杯前にはBリーグのレギュラーシーズンと天皇杯ファイナル(3月12日、千葉ジェッツ戦)もあります。東アジアスーパーリーグ(EASL)も開催されます。1つずつタイトルを獲ることで、チームの実績ができて名前も広まります。タイトルとW杯はチームにとって一番の広告です」

#45ジャック・クーリーは得点源としてチームを引っ張り続ける。

~沖縄からアジア、そして世界へ

EASLが、3月1-3日に日環アリーナ栃木、同4-5日に沖縄アリーナで開催される。宇都宮ブレックスと共に参加する今大会を重要視している。

「日本の他、韓国、フィリピン、台湾、香港のチームが出場、決勝戦の舞台が沖縄アリーナなので大きな告知になります。また台湾やフィリピンではバスケは国全体で人気があり、盛り上がっています。その他の国もW杯に注目しているので、アジア圏で沖縄のバスケ熱がかなり話題になるはずです」

アジア特別枠でフィリピンから202cmのフォワード、カール・タマヨ(22歳)を獲得したことも話題となった。2月16日に行われた入団会見には、オンラインでフィリピン・メディアも多数参加したことから、関心の高さがわかる。

「フィリピン代表のスター選手なので、キングスの勝利に大きく貢献してくれるはずです。また大きく注目されるのは間違いない。今後は日本国内だけではなく、アジアも主要マーケットとして考えています。沖縄はアジアのハブだと思っていますので、どんどん広げていきたいです」

#14岸本隆一の勝負強さは信じられないシーンを生み出す。

~沖縄アリーナを常にフルハウスにする

W杯、EASLなど世界的規模の夢も広がるが、地に足をつけた取り組みも忘れない。B.LEAGUE屈指の人気を誇るとはいえ、全ての試合でフルハウスまでには至っていないなど、今後の課題があるのも認識している。

「8,500人くらい入る箱ですが、今は平均7,000人弱の観客動員。現状では2,000席くらいがシーズンシートで、この席数を増やすことも重要だと思っています。また初めて沖縄アリーナへ足を運んだ人はリピーターに、ゆくゆくはシーズンシートを購入するほどになってもらえるように努力を続ける必要があります」

キングスの大きな武器の1つは米国人ファンの多さでもある。まるで米国で試合を見ているような雰囲気を作り出せている。

「米国人ファンの方々はバスケを見る目が肥えています。本国のNBAを十二分に知っているので盛り上がり方も熟知しています。今でもコートサイドや1階フロアは米国人、基地の方々が多い。多様な人々が楽しめるようにしていくことが重要です」

キングスの試合後に沖縄アリーナで行われたミニバスケの試合の様子。

~チームもビジネスも強い組織

2026-27年からの新B1参入基準がB.LEAGUEから発表され、議論を呼んでいる。都市部を除いては、特にアリーナ問題などでクリアすべきハードルを抱えるクラブが多い。キングスはそういった問題を早々とクリアしている中で、今後の方向性について聞いてみた。

「強い組織を作りたいです。誰が経営に携わっても再現できる組織構造を作って、来るべき新B1に備えたい。新B1になると所属チームが減り、同一チームとの対戦が増えることが予想されます。見ている人を飽きさせることなく、チームの魅力を発信し続けることを形として作り上げたいです」

「沖縄はバスケが身近にあるのが当たり前。これが一番の武器だと思います。男女共に子供の頃からミニバスケが盛んで、高校生の年代までかなり盛り上がる。野球と同等くらいの盛り上がりがあります」

キングスはタイトル奪取と共に、沖縄を盛り上げることを忘れない。

現状を冷静に分析、謙虚な語り口ながらも言葉の裏には自信が溢れているようだった。その中で最後に語ってくれたのは、沖縄のバスケ熱、愛がキングスを支えているということだった。

今季のキングスには天皇杯初制覇、そしてリーグ初優勝の可能性がある。そしてW杯を足がかりに、沖縄市の更なる地域活性、発展にも大きな期待がかかる。

B.LEAGUEはまだ10年にも満たないが常に進歩を続けている。その中で今後50年先、沖縄のバスケがどこまで盛り上がっているのか楽しみでしょうがない。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真提供・琉球ゴールデンキングス)

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